近年、インプラント治療を受ける方が増加しています。インプラント治療は、歯を失った場合でも、顎の骨に金属の人工歯根を埋め込むことで、再び自分の歯のような使用感を取り戻す事ができる画期的な治療法です。しかし、インプラント治療は外科手術を伴う事から、「手術が痛そう」「顎に金属を埋め込むなんて怖い」「後から痛くなったりしないのか」などの不安要素も多いようです。実際には、耐えられないような強い痛みが続く事は殆どありませんし、それほど怖いものでもありません。しかし、外科手術ですので、多少痛みが発生することもあります。今回は、インプラント治療の不安を少しでも取り除いていただけるよう、インプラント治療を「手術中」、「手術直後」、「治療終了後」の3つの過程に分けて「手術中の痛みの軽減方法、恐怖心の緩和方法」、「手術直後に痛みを抑える為の注意点」、「インプラント治療終了後に痛む場合の原因と対処方法」について解説します。
インプラント手術は、麻酔が効いた状態で行われるので、痛みは殆どありません。ただ、その麻酔をかける時に多少の痛みを感じることがあります。局所麻酔を行う歯科医院では、できるだけ痛みを感じにくい以下の方法で、麻酔時の痛みを軽減しています。
①表面麻酔を使う
麻酔針を刺す部分に、クリーム状の麻酔薬を塗布し、粘膜表面の感覚を麻痺させる方法です。他にもスプレー式のものなどがあります。
②電動注射器を使う
一定の速度でゆっくり注入するため、麻酔薬注入時の痛みが軽減されます。
③0.2㎜の細い針を使う
通常、歯科で使われる局所麻酔の針は、0.4㎜か0.3㎜といわれています。手動の注射器では、この細さが限界ですが、電動注射器であれば、0.2㎜の、より痛みの少ない針を使用する事ができます。
④麻酔薬を温める
麻酔薬が冷たいと、痛みを感じやすいので、あらかじめ人肌に温めておいた麻酔薬を使用します。
また、上記のような「局所麻酔」の他に、痛みとは直接関係がありませんが、治療中の恐怖心をやわらげるために「笑気麻酔」や「静脈内鎮静法」を行う歯科医院もあります。
笑気麻酔とは
「亜酸化窒素」というガスを鼻から吸い込んで気分をリラックスさせる方法です。30%以下の低濃度のガスなので、安全とされています。
静脈内鎮静法とは
腕の静脈に投与する点滴麻酔の方法です。全身麻酔ではないので、完全に意識がなくなるわけではありません。うっすらと眠ったような状態で、治療を受ける事ができます。
手術後の痛みをなるべく抑えるためには、次のような事に注意しましょう。
【注意点①】処方された薬をきちんと飲む
手術後は、痛み止めと抗生物質が処方される事が多いです。麻酔が切れた後が特に痛みやすいので、痛み止めは麻酔が切れる前に飲んでおくと良いでしょう。抗生物質は、手術部位の細菌感染を防ぐために、必ず指示通りに飲むようにしましょう。
【注意点②】患部を冷やす
痛みを軽減させるのに、患部を冷やすのは効果的です。ただし、冷やすのは24時間以内にしましょう。それ以上冷やし続けるのは、患部の血液の循環を悪くするので、回復に影響します。冷やし方は、必ず頬の外側から、濡れたタオルなどで冷やすようにしましょう。患部を直接氷などで冷やすと、刺激が強すぎて逆効果になることもあるので気をつけましょう。
【注意点③】飲酒・激しい運動・長風呂は控える
飲酒や激しい運動は、身体の血流が良くなるため、痛みが出やすくなります。手術後しばらくは飲酒や激しい運動は控えるようにしましょう。また、入浴時にあまり長時間熱いお湯に浸かっていると、身体の血流が良くなりすぎてしまい、痛みが出やすくなるので、軽い入浴・シャワー程度にしましょう。
【注意点④】喫煙を控える
喫煙は、血管を収縮させる作用があります。歯茎にも毛細血管が通っているので、喫煙の影響を受けます。歯茎の毛細血管が収縮すると、歯茎の血流が悪くなり、回復を遅らせるだけでなく、細菌に感染しやすくなるなど、痛みの原因になります。
【注意点⑤】手術部位はなるべく触らず、使わないようにする
手術後は、なるべくインプラントを入れた歯で食べ物を噛まないようにするのが良いでしょう。数日は、やわらかめの食べ物にするのがオススメです。また、手術後の歯磨きについては歯科医師の指導に従って行うようにしてください。
【注意点⑥】鼻を強くかまない
インプラント手術の補助手術で、サイナスリフトやソケットリフトなど、上顎の骨の厚みを増すために、鼻につながる空洞に穴を空けるような手術を行う場合があります。その場合、鼻を強く噛むと痛みを感じる事がありますので気をつけましょう。
インプラント治療後に痛みを感じる場合は次のような原因が考えられます。
【痛みの原因①】インプラント周囲炎
天然の歯の場合、歯の周囲を不衛生にしていると、歯周病菌が繁殖し、歯周組織に炎症を起こす“歯周病”を発症する事があります。インプラントの場合も、これと同様の事が起こります。これを「インプラント周囲炎」とよび、インプラントの治療終了後、起こりやすいトラブルのひとつです。放置すると、インプラントを摘出しなければならないほど深刻になる事があるので注意が必要です。インプラント装着後、毎日のケアが不十分である場合や、歯科医院で定期的なメインテナンスを受けていないと、インプラントの周囲が不衛生になり、インプラント周囲炎を起こします。早めの段階で歯科を受診し、毎日のケアでインプラントの周囲の衛生状態を維持すれば、炎症は治まってきます。繰り返し、炎症を起こす事がないよう、毎日の適切なケア方法を習得し、定期的に歯科でメインテナンスを受けましょう。
【痛みの原因②】パーツのゆるみ
インプラントは、歯根部分(フェクスチャー)と上部の被せ物(クラウン)、それを繋ぐ支台部分(アバットメント)でできています。支台部分は、ネジ式で固定されており、何らかの原因でゆるんでしまう事があります。ゆるんでしまうと、その部分に細菌が溜まり、周囲に炎症がおきて痛む事があります。放っておくと、骨との結合部に力がかかって破損する場合や、最悪の場合インプラント除去しなくてはならなくなります。ゆるんできたなと思ったら、早めに歯科を受診し、調整をし直す必要があります。
【痛みの原因③】インプラントが抜けかかっている
過度な力が加わった場合や、インプラント埋入時に周囲が炎症を起こした場合など、何らかのトラブルが起きている状態です。インプラントが抜けてしまうと、状態によっては、再びインプラントを埋める事が難しくなる事があります。とにかく早めに受診するようにしてください。
いかがでしたでしょうか。インプラントの手術前にきちんと歯医者で治療の説明を受け、正しい知識を得ることが恐怖心を取り除く一番の方法です。手術後も歯科医師からの指導を守ることで痛みを最小限に抑えることができます。インプラント治療で、自分の歯のような自然な感覚を取り戻せたとしても、ケアを怠ってはいけません。インプラントで快適な生活を送るためには、定期的に歯医者でメインテナンスを受けることが一番大切です。
デンタル・コンシェルジュは、全国の歯科医院からあなたに合った歯科医院を検索できるポータルサイトです。